あいえる協会活動ブログ

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ヘルパーさんと地域で❝自分らしい生活❞を!~藤本さんと❝相模原❞に迫ってみた!!~

あいえる協会 2022年12月14日

 昨年度に引き続き、藤本さんの“好き”から生活に迫っていく連載。

 今回は、藤本さんの人生初の旅行について迫っていきます。

 盛りだくさんだった初体験、前後編に分けて掲載しますのでお楽しみください。(文責・中野)

 

☆人生初の新幹線☆

~熱い想いとホクホクの初体験を乗せて~

 

 1日目の旅行先、津久井やまゆり園は自然豊かなところに位置しています。

 途中、一時間に一本の電車に乗らなければならない為、時間設定はなかなかシビア。

 そのためいつもよりもだいぶ早起きして、ヘルパーさんも時間調整してもらい、準備はバッチリ。いざ、新幹線へ!!

 新幹線のスタッフはとても連携が取れており、スムーズに乗ることができました。

 

 新幹線の座席に座り、しばらくヘルパーと雑談していると、横を華やかな笑顔と共にワゴンとスタッフが通っていきました。

「ねぇ、あのワゴンは何?」

「藤本さん、新幹線内ではワゴン販売がありコーヒーなどが購入できるんですよ!」

「そうなの!初めて見たわ!」

 人生初体験、ワゴンのスタッフに声をかけてコーヒーを注文。

 ズバリ、コーヒーのお味は…?

「普段飲むコーヒーとは味が格段に違うわ!」とのことでした。

 更に更に、新幹線ならではのお楽しみといえば・・・駅弁!

 腹が減ってはなんとやら、という事でこちらも人生初、駅弁を購入。

 

 

 素敵な満面の笑顔で、美味しそうなお弁当を召し上がられていました(*^^*)

 しっかり腹ごしらえも済ませたところで、いざ、出陣!!

 

☆ずっと行きたかった彼の地で☆

~その地で祈り、思ったこととは~

 

 新幹線に乗り、在来線に1時間半揺られ、介護タクシーでアップダウンの多い山道を進み…

 やっとの思いでたどり着いた今回の目的地の一つ目、“津久井やまゆり園”。

 6年半前に元施設職員による凄惨な入所施設者への殺傷事件が起きた、その場所です。

 

 藤本さんは万感の思いを込めて、「やっとこれた」と一言だけつぶやいておられました。

 園を訪れるとすぐに、穏やかな物腰の園長さんが出てきてくださいました。

 実は、前回のブログで触れた勉強会の中で、人生経験豊富なみっちゃんから、「訪問する日時が具体的に決まっているなら、きちんとアポを取れば、スタッフの方が対応してくださるかもしれないよ」と的確なアドバイスをいただき、事前にアポ取りをしていたのです。

 また、みっちゃんは園長さんと事前に話し合いをして関係を築いており、「アポとる時は私の名前を出していいよ」と言ってくれました。

 おかげで、園長さんが特別に時間を設けてくださる運びとなりました。
 一番最初に、玄関前に大きく空間をとり設けられたモニュメントに案内してくださいました。

 

 モニュメントの前に立ち、園長さんと共に黙とうを捧げました。

 藤本さんも固く手を組み、祈りをささげておられました。

 

 モニュメントは空を映す水鏡となっているそうです。

 秋の爽やかな青空を映し、そこから被害者の数に合わせた19カ所から水が流れ落ちるようになっていました。

 

☆熱血取材開始☆

~園長さん、お聞きしたいことがあるんです!!!~

 

 黙とう後、園内の会議室に通して頂きました。

 会議室で事前にみっちゃんと考えていた質問を一つ一つ問いかけ、園長先生はすべてに誠実に答えてくださいました。

 その一部を紹介させていただきます。

 

施設で実際に起こった殺傷事件について

藤本:職員さんや入居者さんは6年半前に起こった事件のことを今はどう思っていますか?

園長:ショックを受けていた職員は多かったです。退職した人もいたが、多くの人は残ってくれました。

入所者も事件のことは理解しており、友達が亡くなったとわかっています。月命日には法人祈りの日を設けて、みんなで手をあわせています。

藤本:もし誰か、犯人と同じ考えならどうなさいますか?

園長:辞めてもらいます。この仕事には適さないと思います。

そこまではっきりとおっしゃられた後、園長さんは一呼吸おいて口を開かれました。

「犯人だった元職員は、衆議院宛ての手紙を持って行った辺りから言動がおかしくなり、ちょうどこの部屋で話し合いをして辞めてもらいました。自分は当時総務部長をしていたため、彼と直接話しました。彼のおこなったことは決して肯定されるものではなく、しっかりと否定していく必要があると思います。自分は彼に入職時から関わっており、被害者、遺族には不甲斐ない、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 

園長さんの話を聞いて、思わず部屋をぐるりと見まわしてしまいました。

犯人がこの施設で働いていたことはもちろん知っていましたが、実際にこの部屋で話し合ったのだと聞くと、事実がより一層現実味を帯びてくるような気がしました。

 

 他にも、施設内での生活や余暇、お金の管理についてなど色々なことをお聞きしました。

 活動の一環として、一部の入所者の方から公共機関の利用に取り組んでいるが、コロナ禍もあり、まだまだ課題がある事。

 事件前からGHへの移行支援を進めており、20人くらいの人がGHに移行したが、多くの人はそもそもGHのイメージが付かず、試してみるところから支援が必要な事。

 不正を防止するために通帳などは預からず、利用料+日々の買い物のお金を一旦立て替えたものを、まとめて請求する形をとっているが、民間の施設の中にはいまだに通帳を園で管理しているところもあることなど…。

 課題や難しいこと、また今の民間の施設の現状も含めて、誠実に答えてくださいました。

 また、1948年から1996年まで存在した優生保護法の下、障害者の方に対して多く行われていた子宮摘出手術について、どう思われるか藤本さんが尋ねると、園長さんははっきりとこうおっしゃいました。

「国が犯罪を犯していたという事は、決して許される話ではないです。誰でも生きていける共生社会を実現したいと思っているし、拒むことは許されないと思っています」

 1時間ほど色々と話し合った後、施設見学もさせてくださいました。

 

 事件後、入所者の方々が避難した体育館です。

 施設内を見学した後、最後にロビーの一部のコーナーに案内してくださいました。

 

 全国から寄せられた、犠牲者の皆様への慰霊の思いが込められたものの掲示コーナーです。

 その中になんと、当法人が実施しているアピール活動で、あいえる協会のみんなで書いた手紙が掲示されていました!

 

 園長さんと一緒に、パシャリ。いい笑顔です。

 最後にもう一度モニュメントを見せて頂きました。

 モニュメントの横に、昨年建てられた遺族有志による“ともに生きる”という石碑が刻まれていました。

 

 あっという間に滞在予定時間は過ぎてしまい、藤本さんと園長さんは固い握手を交わし、この場を去りました。

 

☆藤本さんに聞いてみた☆

~やまゆり園を実際に訪問して~

 

「しんどかったけど、来れて良かった。園長さんがとても穏やかで優しかった。犯人についての話が興味深かった。自分の知りたかったことをたくさん知れた」

 

 今回、藤本さんの人生初旅行に同行させて頂いたのですが、私も一緒に話を聞く中で考えさせられる場面がたくさんありました。

 やまゆり園で6年半前におきた殺傷事件は、ただの殺傷事件ではないと思います。

 犯人の持っていた“優生思想”、生産性のないものは社会に必要がないという考え方は、犯人だけが持っている意見なのでしょうか。

 障害者の方と一緒に社会に出ると、社会から向けられる目が、一緒にみる視野が、健常者が普段当たり前に生活している視点とがらりと変わります。

 そして、当事者と共に見る世界は、必ずしも全てあたたかい物とは限りません。

 でも、社会に必要とされているかどうかなんて、誰が決めた基準なのでしょうか。

 一度も社会に迷惑をかけないまま自分は生涯を終えるなんて、明言できる人なんているのでしょうか。

 

 亡くなった19人の方々|19のいのち 障害者殺傷事件 NHK

 事件後開設された上記の記事には、遺族や関係者からの様々な角度からの意見がまとめられています。

 その中で、遺族の方のコメントを引用させていただきます。

 

 “他人が勝手に奪っていい命などひとつもないという事を伝えます。私には娘がいて、とても幸せでした。決して不幸ではなかったです。“不幸を作る”とか勝手に言わないでほしいです。私の娘はたまたま障害を持って生まれてきただけです。何も悪くありません。”

 

 この人は社会に要らない、なんて、決める権利はだれにもないのだと思います。

 そして園長さんも言っておられたように、みんなが共生して生きていくために、共生社会の実現を常に目指していく必要があると思います。

 

 今回の旅行、前半だけでも、様々な人の介助を受けて、やまゆり園にたどり着くことができました。

 藤本さんのように、“実際に行動する”ことで、社会から見えてくるバリアがあります。

 実際に行動することで、社会の人に知ってもらうことができます。

 そしてその一歩が、共生社会に繋がる大切な一歩なのではないでしょうか。

 

 やまゆり園を出た後、藤本さんの足は横浜へと向かいます。ドタバタ旅行記の後編は次の記事で!