あいえる協会活動ブログ
活動内容から日常の出来事まで、いろいろな「あいえる協会」をお伝えします!
小説『ショーガイシャ、デビュー』その2
あいえる協会 2024年1月12日
※2022年に逝去されたあいえる協会の当事者メンバー、何方英草(いずかたえいそう)こと松永さんが、2008年からあいえるらくがき帳に連載されていた小説を、一部編集したものです。 |
ショーガイシャ、デビュー |
ある夜、筆者が就寝して深夜2時頃、目がぱっと覚める。
ノドが乾いたので 何か飲もうと、サイドテーブルに置いてあった飲みかけのウーロン茶を取ろうと思い、健側の右手を伸ばす。
しかし、なかなか届かない。
介護ベッドの上半身をコントロールスイッチで起こしたら取れるぞ、と、と~れ~るぅ、ぅ、ぅ、ぅ、あ! !ドッタン!うぎゃ!痛!ベッドから落ちてしもうたっ!
痛~どうも骨盤打ってしもたな、えっとナースコールナースコール…。
おいナースコール傍に置いとくの忘れたやんけぇ!ああアホやなぁ。
それよりカラダ冷えてきたがな寒~!
床はコンクリートで、ビニールカーペット敷き詰めとるから、よけい冷えるやんけ。
起毛式のカーペットやったらまだしも、何かないかなぁ。
しゃーない、ベッドの毛布ひっこ抜いて床に敷いたれ。
よいしょよいしょっと…何とか引きずり降ろしたぞ。
今度は、掛けフトンも、ほんで毛布にくるまってでも、なんか隙間からスースーして寒い。
床に寝そべって、健側の脚で床を蹴って、滑るように扉の前まで辿り着き、扉を叩いて大声を出す。
「看護婦さあ~ん!誰かぁ!たすけてぇ~」
するとそこへ、不幸中の幸いというか、タイミングよく看護婦さんが懐中電灯持って見回りに来る。
ナースシューズの音が、だんだんスタスタスタと近づいて、扉を「ガチャ」
「きゃ!何してんの何方さん…」
「ベッドから落ちてん」
「何でナースコール押さへんかったの? もぅ!ケガしたらどうするん?! ほんでどっか痛いとこないですか?」
「うん、何か骨盤打って痛いわ」
「えっ!ちょっとあかんやん、大丈夫ぅ…?」
「大丈夫、大丈夫今は、もう痛み引いたし、別に腫れてないから」
「でも、一応レントゲン撮っときましょ」
そして明来る日、早速レントゲンを撮る。
その結果、辛うじて異常無しが確認できる。
看護婦さんから大目玉を喰らう。
「もう!何方さんわ!冷や冷やさせんといてぇやぁ。今度は、ちゃんとナースコール鳴らしてや 」
「ご、ごめぇん…」
「もう!!うんざりや!……どうせ一生カタ〇やねん!!」
「なんやて!!何方さん!もいっぺん言うてみなさい」
「おう!…どうせカタ〇じゃぁ」
何方、リハビリ中にカンシャクを起こして、持っていたステッキを投げ捨てる。バシッ!
「何すんのぅ!!何方さんわぁ!コケたらどないすんの! ほら!ステッキ持ちなさい 」
先生、ステッキを拾って何方に手渡す。
「ハイ!しっかり掴んで」
また捨てる。
「ほな!次からリハビリ来んでよろし!看護婦さあん!ちょっと車いす持って来てぇ!」
何方を車いすに座らせる先生、悲憤で口元がワナワナふるえてる。
「看護婦さん!何方さん病室まで押して行ってぇ。今日は、もうこれでおしまい!病室帰んなさい!スンマセンお願いします」
看護婦さん、何方を乗せた車椅子を押して、優しくなだめながら病室へ向かう。
「何方さん!カンシャク起こしたらあかんわぁ。あの世野先生ほどね、どの患者さんにも平等に愛情注いでリハビリやってくれる理学療法士居らんで。医療知識も豊富で、可愛らしくてぇ優しくてぇ、メッチャ頭のええ先生やで。私なんか憧れるわぁ。そりゃ何方さんにしてみたら、ある日突然倒れてしもうて障害者になるわけやから、気が動転するのも当然やけど」
何方、ふくれ面で涙が溢れてくる。
「ほら!病室着いたよ、んん?まだ泣いてるん?まぁええわぁ…泣くことでストレス物質が涙と一緒に流されるからね。別に男でもこらえる事ない!気の済むまで泣きなさい!ほんで明日、また先生とこ行って、ちゃんと謝って、リハビリやりますって言いや」
看護婦さん、ちょっと薬臭いガーゼをポケットから出して、何方の涙を拭いて、
「がんばりやぁ何方さん。もうキリがないねぇ、拭いても拭いても涙出てくるね、ふふ」
「でもぅ…でもせんせ『もう来んでもよろし』って怒ってたもん……」
「そんなん本気で怒ってるわけちゃうやろ。先生な、何方さんが一所懸命自分で服着替えてるとこ陰で見てたことあってね。私もたまたま先生のお手伝いしててね、先生まるで自分の子供を見守るかのように応援してたよぅ。『そうそう、ウマいウマいできたやん』て、先生手ぇ叩いて喜んでたでぇ」
そして明くる日、意を決してリハビリルームへ向かう。
通路で偶然、上西先生と遭遇。両手にいっぱいファイルを抱えて、満面の笑み。
「しっかり世野先生のリハビリ受けや!ファイト!」
バタバタバタ!先生、うっかりガッツポーズとってしまう。
「あららら」
何方、その横を通り抜けざま、
「ハハハそそっかしいなぁ先生もファイト!」
「コラッ!待て!」
逃げるように通りすぎる。
リハビリルーム入り口に辿り着く自動ドアの前で、止まって逡巡していると、背後から声が。
「コラッ、つーかーまーえた!」
上西先生だ!
「何方さん、何してんの?P.T受けに来たんやろ?…P.Tの後、すぐ私のO.Tやで。時間ないよ、はよ!押すで」
自動ドアが開く。
先生が、スーッとP.Tスペースまで何方を乗せた車イスを押してくれる。
世野先生、準備中。
「ハイ!こっから自分で漕いで行きなさい」
「でもぅ…ぅ…やっぱ!…」
「ホラッ!」
促される何方、渋々 漕ぎ始める。
世野先生は忙しそうに準備中。その背後まで接近、何方、声涙共に下り
「せ、先生、ご、ごべんなざいぜんぜぼぐな…」
世野先生パっと振り向きざま、悲哀を秘めたひきつった笑顔で、
「解ってますよぅ…もうええから、そこのリハベッド移乗してできるね」
しかし何方、自分でベッドへ移乗しようとした瞬間、カラダに激しい痙攣が発生する。ガクガク
「痛い!せんせ!!あう怖い!たた倒れそう!」
つづく